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◆ 2009年10月23日

才覚を持つものと発掘するものとの良縁

昨年亡くなられた重要無形文化財保持者(人間国宝)で京友禅作家の森口華弘(もりぐち・かこう)さん。斬新な意匠で現代的な息吹を友禅の世界に吹き込んだ方として有名ですが、先日、森口さんの素晴らしい話を聞く機会がありました。

森口さんが学童のころ、図工の時間に「みかんの絵を描きましょう」と、担当教師が生徒に指示した。森口さんが描いたのは、画用紙からはみ出るほどの大きなみかんだった。教師はスイカではなく、みかんを描くようにいった。

「みかんはもっと小さなものでしょう」 

森口さんは、『みかんはとても甘くておいしいけど、小さい。だからスイカみたいに大きなみかんがあればいいなあ』と思って描いたという。でもそれはいわなかった。

次にまたやってきた図工の時間。今度は汽車を描くようにいわれた。

森口さんは画用紙の中央やや右側に、上から下に伸びる二本の線を描き、それに短い横棒を入れていった。線路である。その右手には、たわわに実る稲穂で埋め尽くされた田を、左手には麦畑を描いた。

面積では右の稲が二、左の麦が五、線路部分が三という構成だった。「汽車を書くようにといったのに、この絵には汽車がないじゃないか」と教師からいわれた。森口さんは、「汽車はもう先に行ってしまった」と答えた。

そんなことがあって、二枚の絵はどちらも、甲乙丙の「丙」になった。おそらく、トンチンカンな絵しか描けない子という評価を受けたのだろう。

そんなある日のこと、臨時に赴任してきた美術の教師が森口さんの絵をじっと見ていった。

「この絵はおもしろい。あなたは夢を描きたかったのか?」 

森口さんはうなずいた。大きくて甘いみかんが欲しかったし、汽車が通り抜けるのどかな風景が好きだったからだ。

「それなら丙でなく、甲をあげよう」と臨時の教師から言われた。

図工で、美術の先生から『甲』をもらえた。ひょっとしたらぼくには、絵の才能があるのかもしれない。 それが絵を描くきっかけになったと、森口さんは振り返った。

京友禅をプロとしてやり続け、人間国宝にまでなった森口さんには才覚がありました。その才覚を発掘したのは、臨時に赴任してきた美術教師です。

才覚があっても目利きがいなければ才覚は発掘されず、開花しないまま埋もれてしまうことをよく物語っていると思います。

無限の可能性を持つ子供の親として、深く考えさせられる話ですね。

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Kazz
前職のSEを12年勤めた後、自然環境保全を学び、2001年よりリコーにて環境社会貢献を担当。北米先住民の知恵「7世代先のことを考えて行動する」に深く学びながら、持続可能な社会を目指して「地球環境の回復力向上」のため、NGOとの連携による森林生態系保全プロジェクトの推進、社員の環境ボランティア活動促進など自然生態系の保全に取り組む。 08年設立の国内企業が連携して生物多様性保全に取り組む「企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)」の研究開発部会長

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